次世代電気自動車の実現に貢献する新型シール

</br>次世代電気自動車の実現に貢献する新型シール

トレルボルグ シーリング ソリューションズは、e-モビリティ用にHiSpin® PDR RTとHiSpin® HS40を開発いたしました。これら2つのタイプの新型シールは、高速回転向けとして特別に設計されたシールとなっています。1回の充電でガソリン車と同等の走行距離を実現するという電気自動車の最終目標達成の妨げとなる高速回転条件下で起こるシールに起因した課題を克服する大きな1歩となります。

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二酸化炭素の更なる排出削減や世界のいくつかの大都市で打ち出された自動車の市街地への乗り入れ規制を背景に、電気自動車の普及拡大の機運が高まっています。IEA (International Energy Agency: 国際エネルギー機関)のレポートによると、2017年の世界の電気自動車販売は310万台に達しました。しかし、この販売台数、ますます拡大し、2030年までに、少なくとも1億2500万台、潜在的には2億2000万台に達すると予測されています。

しかしながら、この予測にはドライバーに従来のガソリン車からの乗り換えを促すこととなる1回の充電でガソリン車並みの走行距離が可能となる技術の確立が必要とされております。新たに開発したこれら2つのシールがこの課題解決の重要な一歩となります。

Jan Zumbach (Trelleborg Sealing Solutions、e-Mobilityビジネス責任者)によると、走行距離問題の克服が電気自動車の普及に重要な点となっています。『一般的にガソリン車やディーゼル車の場合、ドライバーはガソリンスタンドなどのインフラが既に整っているため、ガソリン補給を問題視せず、目的地までたどり着けると分かっています。』

『一方、電気自動車を運転する際には、目的地までの十分に充電が持つか、さらに充電設備の不足や充電時間といった懸念事項が、ドライバーを不安にさせることになります。これらの問題を解決する方法として、充電設備の設置と1回の充電による走行距離を伸ばすバッテリー容量の増加が必要になります。』

『そして、この1回の充電による走行距離の延長という目標達成を妨げる1つの要因として、e-アクスルで使用されるシールが挙げられます。当社が新たに開発したHiSpin® PDR RTとHiSpin® HS40が、電気自動車の走行距離を伸ばし、電気自動車の普及拡大を現実のものにする一助となると考えています。』

電気自動車の主要技術の1つにe-アクスルがあります。これは、従来のエンジンスペース内で電動モータとギアボックスを組み合わせたパーツとなっています。電動モータとギアボックスは直接結合されており、ギアボックスでは十分な潤滑が求められる一方で、電動モータの使用環境はドライとなるため、これらの2つのコンポーネント間で使用されるシールには大変高い信頼性が必要とされています。

Paul Taylor (Trelleborg Sealing Solutions、Product Line Director)によると、『電動モータは高速で且つ極めて高い効率性で回転するため、使用するシールには、内燃エンジン車でのトランスミッションの入力側で使用されるシールとは大変異なる要求事項が求められます。一般的にガソリンエンジンでは、2,000 ~ 4,000RPMの回転速度となりますが、電動トランスミッションでは、ガソリン車の最大で約8倍の回転速度で、およそ16,000RPMで回転します。さらに将来的には、この回転数も著しく向上していくといわれています。』

Paulは続けます、『今日の電気自動車に搭載れているe-アクスルで使用されている従来型のシールの周速限界は約30m/sとなっています。しかしながら、効率を最大化する上でe-アクスルの理論上での最適な周速は、60m/s以上といわれており、現状この速度の達成は難しいとされています。』

『ですので、今回の新型e-モビリティ用シールの開発に際し当社が掲げた目標は、少なくとも40m/sまで周速を向上させることでした。この目標は、HiSpin® HS40によって達成し、さらにHiSpin® PDR RTでは60m/sという大変優れた速度を達成いたしました。』

また、e-アクスルでのもう1つの課題は、潤滑不足です。電動モータのギアボックス側の潤滑は大変限定的になることが想定されます。これは多くの場合、オイルミストのみとなるからです。極少量の潤滑もしくはドライとなる使用環境はシールにとって大変過酷な環境となります。このような環境下では、シールには高い摩擦力がおこりやすく、また一定停止期間後の運転再開時にはスティックスリップの発生も予想され、結果として動力損失や走行距離が短くなるだけでなく、潜在的にシールの摩耗や早期寿命の原因となります。

さらに、電動ドライブシステムで使用される潤滑流体が多岐にわたることも、シールにとって過酷な使用環境となっている要因です。これは全てのシール材料が電動ドライブユニット内で使用される流体に耐性を有し、効果的に動作する材料ではないからです。さらに潤滑流体として絶縁性能や低粘性の水系作動油が使用される傾向があり、このトレンドが新たな課題をもたらすと考えられています。

このような電気自動車メーカ様の要望に対し早急にお応えするために、トレルボルグ シーリング ソリューションズでは新型e-モビリティ用シールの開発に際し、特別な開発チームを編成しました。

Colin Macqueen (HiSpin®シール開発プロジェクトリーダー)によると『電気自動車の走行距離をより遠くまで伸ばすことが優先事項となり、従来の新製品開発プロセスでは時間がかかることが予想されたため、当社各分野の専門スタッフによる特別な開発チームを編成しました。この開発チームではドライに近い潤滑環境で機能し、対応流体のバリエーションを増やすだけでなく、e-モビリティに関連した高速回転用のシールソリューションを極めて短時間で開発できる体制をとりました。プロジェクトのキックオフから8ヶ月の開発期間で、これら2つの新製品をお客様へ納入しました。』

この短期開発プロジェクトの結果、HiSpin® PDR RTとHiSpin HS40という2つのソリューションを世の中に送り出しました。新開発された2つのシールは、同じ機能を持ちますが電動ドライブシステムの動作パラメータやお客様の要望によって使い分けられます。

Matthias Keck (Trelleborg Sealing Solutions Germany, Technology & Innovation Director)のコメント:『シールにとって大変過酷なテスト環境でしたが、両シールとも漏れが無く、大変優れた結果となりました。HiSpin® PDR RTでは標準品のPDRと比較し、フリクションは75%の低減となり、さらに速度は60m/sでも動作可能であることが証明されました。』

HiSpin® PDR RTは精密な機械加工を施した金属環と機械的保持性の高い当社独自のPTFE(ポリテトラフロロエチレン)シール材料:ターコン®の2つの部品で構成されています。このシールは、性能を向上させ、シャフトに対し倒れ込むような特長(レイダウン プロファイル)をシールリップに持たせ、精密な機械加工を施した金属環にクリンプさせた特殊設計のシールリップ形状となっています。

このシールは60m/sもしくはそれ以上の速度に対応するだけでなく、低温から高温までの幅広い温度領域でも使用できます。また圧力を受けられるだけでなく、全ての流体に対し耐性を有し、低摩擦係数のPTFE材をシールリップ材に使用しているためドライ環境での運転にも対応可能です。試作品はお客様サポートのため新たに開始したラピッド・プロトタイプサービスで提供しています。また電気伝導性を持つPTFEベースのシールリップ材料もご利用いただけます。

HiSpin® HS40は自動車業界のお客様にとって馴染みの深いオイルシールと似た形状のシールとなっております。しかし、正逆回転に対応できるよう特殊な溝を施したシールリップとなっているため、高速回転時であっても優れた低トルク特性を発揮します。様々な条件によるFEAを行い、特殊なゴム製リップの形状で最適な固定時と運動時のシール性を確保しながら、シャフトに対し最も好ましい状態で接触する柔軟な設計を実現しました。

HiSpin® HS40は、高速環境や幅広い使用温度域に対応できるよう、自動車業界で多くの実績を持つ当社独自のFKM(フッ素ゴム)材料:XLTで製造されています。さらに、この材料はシールにとって過酷な条件となっている合成ATF(Automatic Transmission Fluids:オートマチックトランスミッションフルード)への耐性を持つ材料となっています。HiSpin® HS40は、この特殊な材料を使用し量産用のプロセスで製造された製品となっています。40m/sまでの速度で使用可能で、HiSpin® HS40は、シャフトの軸ブレへの追従性を持ち、組み付けも簡単なシールとなっています。

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